2026年10月1日、カスタマーハラスメントの防止措置が事業主の義務となりました。9月30日改訂の厚生労働省Q&Aも踏まえ、訪問先やパート職員の扱い、相談・記録、外部窓口の役割を整理します。危険時は、記録の完成や該当性の判断を待たず安全確保と連絡を優先します。
介護現場のハラスメント対策|相談・記録メモの結論
10月1日施行のカスハラ防止措置と9月30日改訂の厚労省Q&Aをもとに、訪問先・パート職員の扱い、外部相談窓口と事業主の役割、安全確保後の記録を整理。介護報酬の議論とは分けて確認します。
- 2026年10月1日からカスハラ防止措置が事業主の義務となりました。業務で訪れる利用者宅も職場に含まれ、パート・契約職員も対象です。
- 職場で相談できないときは外部窓口も利用できます。ただし、労働局が個別事案の該当性を判定する制度ではなく、事業主による事実確認と必要な措置が求められます。
- 危険時は安全確保と連絡を優先し、落ち着いてから発言・行動・対応を記録します。正当な申入れや合理的配慮の求めを一律にカスハラと扱いません。
110月1日の義務化と介護報酬の議論を分ける
2026年10月1日、改正労働施策総合推進法によるカスタマーハラスメント防止措置が施行されました。業種や企業規模を問わず事業主の対応が必要です。厚生労働省「あかるい職場応援団」の特設ページでも施行済みの案内を確認できます。
一方、8月28日の第263回介護給付費分科会資料5は、介護現場の安全確保やサービス継続を令和9年度介護報酬改定に向けて検討する資料です。この資料自体が新たな加算・単位数や一律のサービス拒否基準を決めたわけではありません。施行済みの防止措置への対応を、報酬改定の結論待ちにしません。
10月1日に施行済み
報酬の議論と区別
事業所の体制を確認
2訪問先・パート職員も対象として相談経路を確認する
9月30日改訂の厚生労働省Q&A問3は、業務で訪れる利用者宅も「職場」に含み、訪問介護・訪問看護の利用者や家族も「顧客等」に含むと説明しています。また、指針2(3)の労働者には、正職員だけでなく、事業主が雇用するパート・契約職員等も含まれます。雇用形態や施設外であることだけを理由に、相談の対象から外しません。
ただし、訪問先での苦情がすべてカスハラになるわけではありません。顧客等の言動、業務の性質等に照らして許容範囲を超えること、就業環境が害されることの3要素を踏まえ、経緯を確認します。職員にその場で判定させず、相談先へつなぎます。訪問前に「日中の担当者が不在なら誰へ連絡するか」を確認するのは、編集部からの実務上の提案です。
3相談窓口だけでなく、対応できる体制をそろえる
改正指針で求められる措置は、職員を保護する方針と対処内容の周知、相談窓口と担当者の対応力、事実確認・被害者への配慮・再発防止、特に悪質な言動への対処方針と実行体制、相談者等のプライバシー保護と不利益な取扱いの禁止です。窓口の名前を掲示するだけで済ませず、担当者が相談を受けた後の動きまで確認します。
介護事業所での実務上の確認例は、夜勤・訪問中の連絡先、担当者不在時の代替先、管理者が対応を引き継ぐ方法、職員の心身の状態への配慮、相談記録を閲覧できる人です。これらは指針を現場で運用するための編集部の整理であり、このメモだけで法令対応の完了を判定するものではありません。
4危険時は記録を待たず、安全確保と連絡を優先する
暴行や脅迫などが疑われる場面では、一人で説得や記録を続けず、安全な場所への退避、応援や管理者への連絡、状況に応じた警察への通報を優先します。利用者と職員の安全を確認し、管理者による対応の引継ぎや複数人での対応につなげます。記録は、安全を確保した後に補います。
指針は、カスハラに該当するか微妙な場合や、発生のおそれがある場合も相談対象としています。「自分の対応が悪かったかもしれない」と相談を控える必要はありません。訪問前の連絡・退避先の準備は在宅介護従事者の安全確保も参考にしてください。
5記録は観察した事実と受け止めを分ける
日時、場所、同席者、実際の発言や行動、職員が行った対応、共有先と時刻、次に確認することを整理します。職員が感じた恐怖や心身の不調も重要な情報です。相手への人格評価に置き換えず、観察した事実と職員の受け止めを分けて残します。
次は編集部が作成した架空の記録例です。「9月25日16時、送迎時に家族から『今すぐ迎えを30分遅らせて』との発言が3回あった。職員Aは管理者への確認が必要と説明し、16時05分に管理者へ電話。Aは『一人で対応することに不安を感じた』と申告。管理者が家族に折り返し、送迎条件を確認する予定」。この例だけでカスハラの該当性を判断せず、経緯や未確認事項を管理者が確認します。表現の整理は介護記録のNG表現と言い換えも参考になります。
相談記録は事業所の定めた保存先と閲覧権限で管理します。通常の申し送りに相談内容をすべて転記するのではなく、次のケアに必要な安全上の注意と、限られた担当者が扱う相談情報を整理します。録音・録画を扱う場合も個人情報の適切な取扱いを確認します。汎用のケア記録やヒヤリハットのテンプレートを、専用の相談記録・権限管理の代わりにはしません。
6職場で相談しづらいときの外部窓口と、その役割
窓口がない、相談しても取り合ってもらえない、不利益が心配で相談できない場合には、会社の外部にも相談先があります。厚生労働省「あかるい職場応援団」の「相談窓口のご案内」から、総合労働相談コーナー等を確認できます。労働者・事業主の相談を面談や電話で受け付けています。公務員等は利用できる窓口が異なるため、同ページの対象範囲も確認してください。
外部相談と、事業主が行う事実確認は役割が異なります。9月30日改訂Q&A問45は、都道府県労働局では個々の事案のハラスメント該当性を判断せず、事業主が指針に沿って事実を確認し、必要な措置を講じると説明しています。「労働局の判定が出るまで対応できない」と保留するのではなく、相談と並行して職員の保護や状況確認を進めます。
相談に備えるメモは、いつ・どこで・誰から・何を言われたか、誰が見ていたかを事実に沿って整理します。これは相談を伝えやすくする準備であり、記録を完成させないと相談できないという条件ではありません。相談先は末尾の参考資料から確認でき、記事内の汎用ツールへ相談内容を入力する必要はありません。
7企業名公表は、義務違反への勧告に従わない場合の仕組み
「対策に不備があれば直ちに公表される」とだけ理解すると、制度の条件が抜け落ちます。改正後の労働施策総合推進法第42条第2項は、カスハラ防止措置等の対象規定に違反する事業主に厚生労働大臣が勧告し、従わなかったとき、その旨を公表できるとしています。相談が1件あっただけで自動的に企業名が公表されるという説明は適切ではありません。
ただし、公表の可能性だけを基準に準備を遅らせるのではなく、職員が安全に相談できる体制を整えます。義務化に伴って介護報酬の加算・減算や指定取消が一律に決まると解釈せず、労働施策総合推進法上の対応は労働局等、介護保険上の個別の取扱いは指定権者・保険者等に確認します。
8正当な申入れと合理的配慮を一律に排除しない
利用者や家族からの苦情すべてがカスハラになるわけではありません。指針は、社会通念上許容される範囲の正当な申入れや、障害を理由とする不当な差別的取扱いをしないよう求めること、社会的障壁を除く配慮が必要だと伝えること自体は、カスハラに当たらないとしています。要求の内容、伝え方、経緯を確認します。
認知症の症状や体調、家族の不安、説明の行き違いなど、確認が必要な背景は関係職種と共有します。合理的配慮や支援の見直しを検討することと、職員が暴力や脅迫を我慢することを混同しません。安全確保と、本人に必要な支援を続けるための調整を並行して行います。
9複数名訪問の費用とサービス継続は個別に確認する
複数人での対応は指針でも対処例として示されています。一方、訪問介護・訪問看護の複数名訪問を介護報酬で評価する際の要件は別に確認が必要です。第263回資料5には利用者等の同意や、サービス種別ごとの条件が示されており、同行者を付ければ自動的に追加の介護報酬を請求できるとは扱いません。管理者が最新の通知や保険者の取扱いを確認します。
サービス提供を継続できるかの判断も、現場職員だけで一律に決めません。第263回資料5は、提供を拒む「正当な理由」の有無を個別具体的な事情に照らして判断すると整理しています。緊急時の退避と、その後のサービス継続の調整を分け、管理者、ケアマネジャー、自治体、必要に応じて法律の専門家等と連携します。再発防止の整理にはヒヤリハット報告の考え方も使えますが、相談情報の共有範囲は別途確認します。
10勤務前に確認するメモ
職員は、相談先と不在時の連絡先、危険時の退避・応援の方法、管理者への引継ぎ、記録の保存先を確認します。管理者は、対応方針の周知、相談担当者の準備、悪質な言動への連携体制、相談者の保護、再発防止策の見直し担当と確認日を整理します。担当名を決めたら、夜勤や訪問中にも連絡が届くかを実際の勤務体制で確かめます。
施行済みの防止措置と介護報酬改定の検討を分けて読み、職員の安全と利用者の権利の双方に配慮します。参考資料の指針・9月30日改訂Q&A・改訂マニュアルと事業所の規程を照らし合わせ、制度や対応に不明点があれば労働局や法人の担当部署へ相談してください。
11よくある失敗と対策
| よくある失敗 | 対策 |
|---|---|
| 労働局によるカスハラ判定を待って対応を止める | 外部窓口に相談しつつ、事業主が事実を確認し、職員の保護と必要な措置を進める |
| 危険が続く中で記録を完成させようとする | 安全確保と連絡を優先し、記録は落ち着いてから補う |
| 相談内容を通常の申し送りで広く共有する | 必要な安全情報と相談情報を分け、保存先と閲覧権限を確認する |
| 強い申入れを一律にカスハラと決めつける | 内容・経緯・態様と合理的配慮の必要性を確認し、職員を一人で対応させない |
12よくある質問
パートの訪問介護職員もカスハラ対策の対象ですか?
対象です。指針の「労働者」には、パートや契約社員など事業主が雇用する労働者全員が含まれます。厚労省Q&A問3では、業務で訪れる利用者宅も「職場」に含まれると説明しています。ただし、個々の言動がカスハラに当たるかは内容・経緯などによるため、本人だけで判断せず相談します。
職場に相談できない場合、外部窓口がカスハラか判定してくれますか?
職場に窓口がない、取り合ってもらえない、不利益が心配な場合には、総合労働相談コーナーなどの外部窓口も利用できます。ただし、厚労省Q&A問45は、都道府県労働局が個々の事案のハラスメント該当性を判断するものではないと説明しています。事実確認と必要な措置は事業主の役割です。危険があれば相談の回答を待たず安全確保と連絡を優先します。
カスハラか分からない段階でも相談できますか?
改正指針は、発生のおそれがある場合や該当するか微妙な場合も広く相談に対応することを求めています。職員が一人で法的な該当性を確定する必要はありません。発言・行動、経緯、自分が感じた不安を分けて伝え、危険があれば記録より先に安全確保と連絡を行います。
参考・出典
- 改正労働施策総合推進法等特設ページ(2026年10月1日の義務化)(厚生労働省 あかるい職場応援団)
- ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について(2026年9月30日改訂、問3・問45)(厚生労働省 雇用環境・均等局雇用機会均等課)
- 相談窓口のご案内(外部の相談窓口・総合労働相談コーナー)(厚生労働省 あかるい職場応援団)
- 2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!(詳細版、1–3頁)(厚生労働省)
- 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)(厚生労働省)
- カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)(厚生労働省)
- 労働施策総合推進法等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)新旧対照条文(本文8頁:改正後第42条第2項)(厚生労働省)
- 第263回介護給付費分科会 資料5「介護現場におけるハラスメント対策」(2026年8月28日)(厚生労働省)



